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コンサルを辞めて「看板のない自分」と向き合った話

コンサルからの転職11分で読める
Kay
KayBig4出身のAI・ITコンサルタント
コンサルを辞めて「看板のない自分」と向き合った話
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目次

辞めた翌日の朝、僕は何もすることがなかった

平日の朝8時。目覚ましをかけていないのに、体が勝手に起きた。

スーツに着替える必要はない。Slackの通知も来ない。誰からも「今日のMTG、10時からで」と言われない。Big4コンサルファームを辞めた翌朝、僕の前にあったのは、ただの静かな部屋だった。

コーヒーを淹れて、窓の外を見た。通勤ラッシュの時間帯だ。駅に向かう人たちの流れが見える。昨日までは、あの中に自分もいた。

正直に言う。解放感なんてなかった。あったのは、「これからどうなるんだろう」という漠然とした不安だけだ。

コンサルファームにいた2年半、僕はずっと「看板のない自分で勝負したい」と思っていた。でも実際に看板を外してみたら、想像していたよりもずっと心細かった。

「Big4の名刺」を失った瞬間に感じたこと

名刺交換で起きた変化

独立して最初の週、以前から付き合いのあった取引先に挨拶に行った。新しい名刺を差し出した瞬間、相手の表情が一瞬変わったのを僕は見逃さなかった。

「あれ、ファーム辞めたんですか」

悪気はないと思う。でも、その声のトーンには明らかに「大丈夫なの?」というニュアンスが含まれていた。Big4の名刺を出していたときは「よろしくお願いします」と即座に商談に入れたのに、フリーランスの名刺だと「で、今は何をされているんですか?」から始まる。

この差は、めちゃくちゃ堪えた。

自分の価値は「ゼロ」なのか

もっとキツかったのは、自分自身の中で起きた変化だ。ファーム時代は「Big4のITコンサルタント」と名乗れば、それだけで一定の信頼があった。肩書きが自己紹介の代わりをしてくれていた。

それがなくなると、自分が何者なのか説明できない。「フリーランスのITコンサルタントです」と言っても、相手の目が「で、実績は?」と問いかけてくる。

IT業界で12年、メガベンチャーでマーケティング、事業会社で社内SE、Big4でチームリーダー。経歴だけ見ればそれなりのはずなのに、看板がなくなった途端、自分の価値がわからなくなる。これは想定外だった。

SNSで元同僚の活躍を見てしまう夜

辞めてから1ヶ月ほど経った頃、夜にSNSを開くのが怖くなった。元同僚が大型プロジェクトにアサインされた投稿。別の同期がマネージャーに昇進した報告。みんな前に進んでいるのに、自分だけ止まっている気がした。

「やっぱり辞めなきゃよかったかな」。深夜2時、天井を見ながらそう思った回数は、最初の3ヶ月で数え切れないほどあった。

収入ゼロの恐怖 — 独立直後の月次収入リアル

僕の独立後の月次収入を、包み隠さず書く。

11ヶ月目:0円 — 案件なし。開業届の提出と営業活動のみ。貯金が減っていく恐怖。
22ヶ月目:15万円 — 知人経由で単発のリサーチ案件を受注。交通費を引くとほぼ利益なし。
33ヶ月目:45万円 — 前職の元クライアントからDX支援案件を獲得。週3稼働。
44ヶ月目:60万円 — 同案件の継続+別の知人経由でスポットコンサルが入る。
55ヶ月目:80万円 — エージェント経由で新規案件を追加。週5稼働に。
66ヶ月目:95万円 — 案件の単価交渉が通り、Big4時代の月収に近づく。

1ヶ月目の「0円」は、頭ではわかっていたのに実際に直面すると想像以上にキツい。通帳を見るたびに残高が減っていく。収入がゼロなのに、家賃も社会保険料も容赦なく引かれていく。

貯金は約300万円用意していた。「半年は耐えられる」と計算していたけど、残高が280万、260万と減っていくのを見ると、計算上は大丈夫でも心が追いつかない。

同時期に辞めた仲間たち — 3人のその後

僕がファームを辞めた前後に、同じチームから3人が退職した。それぞれの「その後」を見ていると、辞めた後の道は本当に人それぞれだと実感する。

Aさん(30代前半):事業会社の経営企画に転職

Aさんはコンサルの働き方に疲れていた。「もう深夜の資料作成はいい」と言って、大手メーカーの経営企画部に転職。年収はファーム時代より100万円ほど下がったが、「毎日19時に帰れるのが最高」と言っている。土日に家族と過ごせるようになって、転職してよかったと。

ただ、半年後に会ったとき「正直、仕事の刺激は物足りない」とも言っていた。コンサルのスピード感に慣れた身体は、事業会社のペースに最初は戸惑うらしい。

Bさん(30代半ば):スタートアップのCOOに就任

Bさんは以前から起業に興味があった。辞めた直後にスタートアップのCOOとして参画。最初は「年収は半分だけど、ストックオプションがあるから」と意気込んでいた。

1年後。そのスタートアップは資金調達に失敗して事業縮小。Bさんは再びコンサルファームに戻った。別のファームだが、ランクは1つ下がった。本人は「いい経験だった」と言っているが、表情には悔しさがにじんでいた。

Cさん(20代後半):フリーランスとして独立 → 半年で会社員に戻る

Cさんは僕と同じくフリーランスを選んだ。でも、案件の営業がうまくいかず、3ヶ月で貯金が底をつきかけた。結局、半年で事業会社に転職した。

Cさんが苦しんだのは「スキルがない」からじゃない。コンサルとしての実力はあった。ただ、営業力とネットワークの準備が足りなかった。独立は「スキルがあればなんとかなる」ものではない。「仕事を取る力」が別で必要になる。

転機 — 最初の本格案件を獲得した経緯

きっかけは退職の挨拶メール

2ヶ月目の半ばだった。転機は意外なところから来た。

退職時に送った挨拶メールに、前職のクライアント企業の部長から返信があった。「実は社内でDX推進の話が出ていて、外部のコンサルを探している。Kayさん、個人でも受けてくれますか?」と。

正直、めちゃくちゃ嬉しかった。看板のない自分に、初めて「あなたに頼みたい」と言ってもらえた瞬間だ。

「ファーム時代のKay」ではなく「個人のKay」として

この案件で気づいたことがある。クライアントが僕に依頼してくれた理由は、ファームのブランドじゃなくて、「一緒に仕事をしたときの仕事の進め方」だった。課題を構造化するスピード、現場のSEとも対等に話せるコミュニケーション、泥臭い実装フェーズまで付き合う姿勢。

事業会社で社内SEをやっていた経験が、ここで活きた。コンサル出身者の多くは「提案して終わり」になりがちだが、僕は実装の現場も知っている。これが、看板なしでも選ばれる理由になっていた。

信頼は「肩書き」ではなく「仕事の積み重ね」で作られる

ファーム時代、僕は「Big4の看板で信頼を得ているのでは」とずっと不安だった。でも、看板を外してみて初めてわかった。信頼は過去の仕事の積み重ねで作られるもので、名刺の裏に書かれたファーム名では作られない。

もちろん看板があった方が楽だ。でも、看板がなくても通用する自分を確認できたことは、独立して得た最大の収穫だった。

半年後の気づき — コンサルスキルは辞めてからこそ活きる

構造化思考は「万能ツール」だった

独立して半年。案件をいくつかこなす中で、確信に変わったことがある。コンサルで叩き込まれたスキルは、辞めてからのほうがむしろ威力を発揮する。

構造化思考、仮説思考、ドキュメンテーション力。ファームにいるときは「当たり前のスキル」だったが、外に出ると希少価値がある。クライアントから「話が早い」「資料のクオリティが段違い」と言われるたびに、ファーム時代の自分に感謝した。

事業会社の経験がコンサルスキルをブーストする

僕の場合、Big4の前に事業会社で社内SEをやっていた経験が大きかった。コンサルの提案を「受ける側」にいたからこそ、クライアントの気持ちがわかる。「この提案、現場じゃ動かないだろうな」という嗅覚がある。

コンサルスキル×現場経験。この掛け合わせが、独立後の差別化ポイントになった。

「辞めなきゃよかった」は完全に消えた

半年経つ頃には、深夜に「辞めなきゃよかった」と思うことはなくなっていた。代わりに「もっと早く辞めてもよかったかもしれない」と思うようになった。

ただし、これは僕の場合の話だ。Cさんのように準備不足で苦しむケースもある。タイミングと準備、両方が揃って初めて「辞めてよかった」と言える。

あなたは独立向き?転職向き? — 判断マトリクス

コンサルを辞めたいと思ったとき、選択肢は大きく2つある。独立(フリーランス)か、転職か。僕の経験と、周囲のケースを見てきた中で、判断のヒントをまとめた。

独立に向いている人の特徴

  • 在職中に「個人名」で信頼関係を築いた顧客がいる。最初の案件は人脈から来る。これがないと1ヶ月目の「0円」が3ヶ月、半年と延びるリスクがある
  • 営業や自己ブランディングに抵抗がない。スキルがあっても仕事を取る力がなければ独立は厳しい。Cさんの例がまさにこれだ
  • 不確実性を楽しめる。来月の収入が読めない生活に耐えられるか。貯金が減っていく恐怖と向き合えるか
  • 孤独に強い。チームで働く刺激がなくなっても、自分を律して仕事ができるか

転職の方が合っている人の特徴

  • 安定した収入基盤がほしい。家族がいる、住宅ローンがあるなど、固定費が高い人は転職の方がリスクが低い
  • 組織の中でキャリアを積みたい。マネジメント経験を増やしたい、CxOを目指したいなら、組織に所属する方が近道
  • コンサルの「働き方」が合わないだけ。仕事内容は好きだけど長時間労働がキツい、という場合はワークライフバランスの良い企業への転職で解決する。Aさんのパターン
  • 独立の準備期間がまだ足りない。貯金・人脈・スキルのいずれかが不足しているなら、一度転職して整えてからでも遅くない
「独立か転職か」は二者択一ではない。まず転職してネットワークを広げ、3〜5年後に独立するルートもある。僕の場合は4社を経た結果の独立だった。焦る必要はない。

「辞めたい」と思ったら今日から始める3ヶ月アクションプラン

「いつか辞めよう」と思いながら何もしないまま1年が経つ。コンサルあるあるだ。僕もそうだった。だから、具体的なアクションプランを書いておく。

1ヶ月目:現状把握と選択肢の整理

  • 市場価値の確認。転職エージェントに2〜3社登録して、今の自分がどのくらいの条件で評価されるかを把握する。独立を考えている場合でも、転職市場での評価を知ることは必須だ
  • 貯金額の確認と生活費の棚卸し。月にいくら必要かを正確に計算する。家賃、保険料、税金、生活費。独立するなら最低6ヶ月分は必要
  • 自分のスキルの棚卸し。「ファームの看板を外したとき、自分に何が残るか」をリストアップする。意外とたくさんあるはずだ

2ヶ月目:ネットワークの活性化

  • 過去のクライアント・同僚に連絡を取る。退職はまだ伝えなくていい。「近況どうですか」くらいの温度感で関係を維持する
  • 社外の勉強会やコミュニティに参加する。ファームの外に人脈を広げておくと、辞めた後の選択肢が増える
  • 副業が可能なら小さく始めてみる。いきなり独立するより、週末だけ個人で案件を受けてみると「看板なしの自分」の感覚がわかる

3ヶ月目:意思決定と行動

  • 独立か転職かを決める。前述の判断マトリクスを参考に、自分がどちらに向いているかを見極める
  • 退職のタイミングを決める。プロジェクトの切れ目がベスト。中途半端なタイミングで抜けると、業界での評判に傷がつく
  • 退職の意思を上司に伝える。決めたら早く伝える。コンサルファームは引き留めが強いが、一度決めたらブレないこと
このプランはあくまで「準備」だ。3ヶ月後に必ず辞めろという話ではない。準備を進める中で「やっぱり今の環境がいい」と思ったら、それも正解だ。大事なのは「選べる状態」を作ること。

現在の僕 — 看板がなくても、やっていける

独立して約3年が経った。月の売上はファーム時代の年収を超える月もあれば、案件の谷間で不安になる月もある。安定しているかと聞かれたら、「会社員よりは不安定」と正直に答える。

でも、後悔はしていない。

あの辞めた翌朝の静かな部屋で感じた不安は、今でも覚えている。名刺交換で相手の表情が変わった瞬間の悔しさも。深夜に「辞めなきゃよかった」と思った夜も。全部、必要な通過点だった。

コンサルを辞めて後悔するかどうかは、辞めた後に何をするかで決まる。辞めること自体に正解も不正解もない。

僕の場合は、看板のない自分と向き合った結果、「意外と自分、やれるじゃん」と思えた。それが今の自信の土台になっている。

もし今、コンサルを辞めようか迷っているなら、怖いのは当然だと伝えたい。僕もめちゃくちゃ怖かった。でも、怖いまま一歩踏み出してみたら、看板がなくても自分の足で立てることに気づけた。

コンサルで身につけたスキルは、辞めた後にこそ真価を発揮する。それは僕が3年かけて確信したことだ。

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Kay

Kay

IT業界12年Big4コンサル出身日英バイリンガル

新卒でメガベンチャーに入社後、ITベンチャー、事業会社のシステム部門を経て、Big4コンサルファームでITコンサルタントとしてチームリーダーを務める。その後フリーランスとして独立し、現在はAI活用コンサルティング・ITコンサルティングを中心に活動。日英バイリンガル。